不快感を排除した先にあるモノ――ポケモンユナイト一周年

 League of Legendsに代表されるMOBAというゲームジャンルに、ポケモンという子供向けIPを引っ提げて参入したポケモンユナイト。MOBAの抱える問題点(複雑な戦略性からくる求められる知識量の多さ/チームゲーム故の味方や敵との不和、煽り)は、ポケモンブランドに釣られてやってくるライト層とは相性が悪いのではないかという懸念があった。実際蓋を開けてみれば、このゲームは『ポケモンでやるMOBA』ではなく、『MOBA風のポケモンアクションゲーム』と呼ぶに相応しい、つまりライト層をターゲットにしたものであった。MOBAの戦略性をトレードオフすることで、それなりに遊びやすいゲームシステムを作り上げることには成功している。

 本日7月21日、そんなポケモンユナイトは一周年を迎えた。リリース当初から今日まで一年に渡り私はこのゲームをプレイし続けてきた。その中で見えてきたこのゲームが抱える問題点について述べていきたい。

ソロプレイ率は95%ほどでランクマッチ勝率56%なので、まあまあぐらいの腕前と言っても差し支えないのではないだろうか

 ポケモンユナイトではプレイヤーが不快感を覚える可能性のあるシステムを徹底的に排除している。いくつか例を紹介しよう。

相手に対する指示/誤りの指摘ができないクイックチャット

 試合前にポケモンを選択する時間と試合中は、事前にシステム側で用意された定型文を発するクイックチャットによって意思疎通を行う。ただしこのクイックチャットには、肯定する内容の文章しか含まれていない。自分がどういう行動を取るつもりか、どのオブジェクトを狙うか、といった意思表示と、それに対する了解コールで意思疎通を行う。

他人の選んだポケモンに対してNGを出すようなチャットは存在しない

 もし特定の個人に対して「それはダメだよ!」というようなチャットができた場合、それを言われたプレイヤーは自分の行動が否定され不快な気分になる可能性がある。そもそも否定チャットによって行動を変えてくれるようなプレイヤーは、「集合!」チャットやオブジェクトに対するピン差しなどで十分意思疎通できるのだ。その行動の是非を議論することができない試合中では、他人を否定するピンやチャットは不快感をよぶだけの可能性が高い。

 そのためポケモンユナイトでは、たとえ自分の動きが間違っていたとしても、それを他者から指摘され不快な気分になることなく自分のプレイをし続けることができる。

リザルトで表示されないデス数

 試合終了時のリザルト画面で表示されるのは獲得キル数/アシスト数のみで、デス数は表示されない。

表示されるのはキル数とアシスト数、詳細データでもデス数は表示されない

 デス数が多さは明確な敗北要因の一つとして考えられるため、これを表示しないことでチーム内での戦犯者がぼかされることになる。たとえどれだけデスを重ねていても、キル/アシストがそれなりにあれば、自分の動きはまあ悪くなかったと面子を立たせることができる。

見えなくなった他人のいいねの数

 ゲーム終了後、任意のプレイヤーにいいねを送ることができる。いいねとはつまり「チームメンバーからのその試合での評価値」であり、チーム内の誰がどれだけいいねを貰っているかが可視化されると、チームメンバーからの評価値が一目瞭然になってしまう。つまりいいねを貰えていないプレイヤーが相対比較により役立たずだったと見做されてしまい、不快感を覚えてしまうのだ。

 これに対する対策として、他のチームメンバーがどれだけいいねを貰ったのかは、自分がいいねをあげた相手の分しか見えないというシステムに変更された。

さらに自分と相手がいいねを送りあっていると、別アイコンに切り替わって相手のいいね数が見えなくなる。

 自分からいいねを送らない限りは自分に対するいいねの数しか認識できないので、何もしない限りは他人との相対的な評価を気にする必要がなくなる。つまり試合における自分のプレイにおける客観的な評価は、能動的に見ようとしない限り目を背けることができる。

やればやるだけ上がるレーティング

 リリース当初のマスターランクのレーティングは、勝利しても敗北しても±10程度の変動だった。レートが上がっていくにつれこの上昇値がどんどん減っていき、勝率が5割を超えないとレートが上がっていかないシステムになっていた。そのため大抵のプレイヤーにとっては、やってもやってもレートが上がらず、ランクを回すモチベーションを削がれるシステムとなっていた。

第1シーズンの最終日数日前の記録。前シーズンでこの順位にいくならレート2300以上は必要になる。

 このシステムが第3シーズン以降、勝利すると+12、敗北すると-7程度の変動値となり、やればやるだけ上がるようなレートシステムになった。また一定のレートに到達するとチケット等の報酬も用意された。レーティングの本来の役割であるところの実力の指標を放棄する代わりに、どんなプレイヤーにもランクマッチをプレイし続けるインセンティブを与えることになった。

総括

 これらの要素が示しているのは、ポケモンユナイトでは『自分の実力を客観視させることはプレイヤーにとってストレスである』と見なしていることだ。だからこそ自分の誤った行動を他者から否定されるシステムを排し、自分のプレイに対するデータや他人の評価をリザルトから排し、自分の実力を数値で測るシステムを排したのだ。

 それ自体の是非を問うことはしない。実際この手法がポケモンユナイトのターゲットであるライト層に対し、このゲームを持続させる一助になってる側面はあるだろう。だがそのトレードオフとして受け入れなければならない実情がある。実際そこそこの頻度でランクマッチをやっている身として感じることも多いのだが、ポケモンユナイトは「勝てないのを他人のせいにしてピン煽りする下手くそが多くを占めているゲーム」になっている。

 レーン戦で負けたり集団戦で負けた時に、他のプレイヤーにピン刺し煽りをするプレイヤーを2試合に1回は見る。そして大抵の場合そのプレイヤーの勝率は50%を切っているのだ。実力が低いプレイヤーにそれを自覚させる要素をゲームから徹底的に排除した結果、「自分の実力を過大評価し、自分が勝てないのはチームメイトのせいだと責任転嫁する」プレイヤーが多発している。

 ゲーム中のピン煽りは不快でしかなくモチベーションも下げるだけだが、実力が低いからそのことが理解できず、ただ鬱憤を晴らす行為しか取れないのだ。そんな子供の駄々をただ見守りながらプレイしなければならないのは正直不快でしかない。不快感を取り払った結果生まれたのが、他のプレイヤーに不快感をばら撒く下手くそというのは何とも皮肉だ。

 暫定対処としてならピンのミュート機能があれば、とりあえず目先の不快感を消すことはできる。根本的な対処をするなら、ランクのマッチシステムを勝率が近い者同士で組むようにすればいい。いずれにせよ、この不愉快で不健全なゲームの次の一年がどうなるかは、この問題に対してどう対処を行うか次第であると言えるだろう。