インタラクティブなコンテンツとしてのCaligula2

 Caligulaというゲームの面白さは、突き詰めると『貴方の秘密トラウマを暴きたい』という欲求を満たしてくれるところにある。魅力的な世界観やキャラクター、楽曲のすべては、それらの欲求を刺激するための装置に過ぎないとさえ言っても過言ではない。

 プレイヤーである我々がCaligulaをプレイするにあたって、そういう欲求を満たすことを直接的な目的としているケースは多くはないだろう。しかしながらこのゲーム(あるいはCaligulaというコンテンツ全体において)は、自然かつ巧みにプレイヤーの好奇心や探求心を煽り、その期待に応える秘密を用意してくれている。

 このゲームがそこを自負していることは、ゲームシステムからもよくわかる。Caligula2ではメインシナリオとは別に、キャラクターエピソードが存在しており、メインシナリオを進めると徐々に解放されていく。

キャラクターエピソードは全9章で構成されている

 キャラクターエピソードはメインシナリオ進行中の好きなタイミングで進めることができるが、キャラクターエピソードを進めても、パラメータがアップしたりアイテムが貰えたりといったような、ゲームシステムとしてのメリットは存在しない。つまりゲームを攻略する上で、このキャラクターエピソードを進める必要はないのだ。*1

 類似ゲームとして比較に挙げられるペルソナ5では、似たシステムとしてキャラクターごとに「コープ」が存在する。コープという名前がついてはいるが中身はCaligula2と同じで、キャラクターごとのエピソードが存在しており、それを進めるとコープのレベルが上がっていくというシステムだ。ただしCaligula2と異なる点は、コープは1つ進めるごとに、そのキャラクターに便利なスキルが付与され、ゲームを有利に進めることができる点にある。

 Caligula2ではキャラクターエピソードを進めることにゲーム的なインセンティブを与えない。どころか、進めることを躊躇させるような演出まで存在する。何故そんなシステムにしているのだろうか? 制作者はわかっているのだ。そんなものを用意しなくても、このゲームのプレイヤーはキャラクターエピソードを読み進めたくなるのだと。

 今回はCaligula2というコンテンツのインタラクティブ性――あるいはそういうしゃらくさい言い回しをやめれば、山中Pがどのようにユーザの好奇心を煽ってきたのか――を紹介していきたい。

1stトレーラー公開

 来たる2021年2月18日、ニンテンドーダイレクト内でCaligula2のトレーラーが発表され、その一週間後に1stトレーラーが公開された。

www.youtube.com

 基本的なシステムは前作を踏襲していながらも、随所にパワーアップしている箇所が見て取れ、非常に期待の持てる内容だった。そうなると俄然気になるのがキャラクターだ。帰宅部側と楽士側、それぞれ顔見せ程度でまだまだどういう人物なのかうかがい知ることはできなかったが、ここにちゃんとわかりやすく興味を引くカードを切ってきている。天吹茉莉絵の存在だ。

 苗字こそ違うものの、容姿やCVの同一性から、彼女は前作に登場した水口茉莉絵と同一人物だと思われた。Caligula Overdoseを経てただ一人前向きになれない終わりを迎えた彼女が、再び理想の世界に囚われるというのは確かに必然であるように思えたし、今度は帰宅部側として焦点が当たるというのは非常に楽しみであった。

 ただ彼女に焦点が当たるのは初めてではなく、彼女を中心にした小説版が存在していた。私はこの時初めて小説版の存在を知り、すぐに買って読んだことを覚えている。

 メビウスに来る前の彼女と、メビウスが消えた後の彼女を描いたこの小説を読んで、茉莉絵というキャラクターへの見方が変わった。*2また、彼女がリドゥに呼び込まれることと関係性を見出せそうな話の終わり方は、よりCaligula2への期待を高めてくれた。

ミュージックトレーラー公開

 3月に入り、Youtubeでミュージックトレーラーの公開が始まった。毎週月曜と金曜の19時に、プレミア公開の形で一人ずつ、楽曲の一部と担当コンポーザーが発表された。

 Caligulaにおける楽曲とは、楽士たちの象徴であり心の叫びでもある。楽曲を聴くことで楽士たちがどういった生い立ちのキャラクターで、どんな後悔を重ねてリドゥへとやってきたのかを伺い知ることができる。それまで立ち絵と僅かなセリフしかなかった楽士が、楽曲の一部が公開されるだけで、一気にキャラクター性が浮き彫りになり、魅力が増していくのだ。

 毎週着々と公開されていく楽曲とコンポーザーにボルテージが上がっていく中、最後に投げつけられた爆弾。このミュージックトレーラーを見た時の衝撃は今でも忘れられない。

www.youtube.com

 前作から引き続いての『cosMo@暴走P』の登用。前作の楽曲『Distorted†Happiness』と重なる、彼女キミへの想いとオマエへの呪いを綴る歌詞。そう、この楽曲はどう聞いても前作でオスティナートの楽士のリーダーを務めた『ソーン』の楽曲なのだ。

 彼と同じ一人称で愛を語る、仮面で正体を隠す男。それまで『楽士のリーダーである謎の仮面の男』でしかなかったブラフマンが、一気にラスボスに相応しい不気味さを増し、前作プレイ者の注目を一身に集めることとなる。

 この仕掛けの絶妙にニクいところは、彼の正体がソーンでない可能性も同時に示唆しているところにある。『やり直しの世界』リドゥで目的を遂げようとしているにも関わらず、彼の詩が『やり直しても噛み合わない』と主張している点。彼の信奉の対象が、『彼女』ではなく『リグレット』である点。そして『宇宙の最高原理』の方が由来だと思われたブラフマンというネーミングが、『嘘つき男』とのダブルミーニングである点。細部に違和を残しながら判然としない彼の正体は、ゲーム本編まで持ち越されることとなる。

エクストリーム帰宅部

 Caligulaのインタラクティブ性を語る上で外せないコンテンツの一つとして、エクストリーム帰宅部も挙げられるだろう。

www.cs.furyu.jp

 エクストリーム帰宅部とは、大川ぶくぶ先生によるCaligulaのキャラっぽい何かが登場するCaligulaとは一切関係のない4コマ漫画だ。シリアスな作風の本編に対してギャグテイストのスピンオフをやるという近年よくみられる手法の一種だが、このエクストリーム帰宅部では奔放すぎる4コマ漫画の内容に対して、毎回プロデューサーコメントで突っ込みが入る形式になっている点で新しい。

 Caligula2のキャラは9割登場せず、内容もCaligulaとほぼ関係なく、4コマ漫画として見てもかなりシュールなため、この4コマ漫画単体で見てもリアクションに困るというのが読者としての正直な感想だろう。しかしそこにプロデューサーコメントによる突っ込みを加えることで、両者を含めて1つのコンテンツとして成立させているところが巧みであると言える。*3

 ちなみに私が一番好きな回は、切子が唯一登場した第25話だ。

www.cs.furyu.jp

【プロデューサーコメント】

カリギュラって何で回復するの?』が
生々しくやってなさ出てて一番嫌だ。
ふわふわパンケーキとかだよ。

 Caligula2は戦闘が終わるとHPが全回復する仕様な上、回復スキルを持つキャラクターも複数いるため、アイテムを使ってHPを回復する機会はそこまで多くない。しかもそのくせHP回復アイテムの種類が無駄に多いのだ。

 つまりこのプロデューサーコメントは、一見Caligulaエアプのぶくぶ先生に対する突っ込みに見えて、実のところ「いやCaligulaやったけど何で回復するのか知らんわw」というコメントを見越した上でのボケなのだ。仮にそこに引っかからなくても、「いや回復アイテムがふわふわパンケーキって何やねんw」とイージーな突っ込みどころも用意してある隙の無さ。まさにエクストリーム帰宅部がぶくぶ先生と山中Pの合同作品であることを証左する代表的な回だと言えるだろう。

Caligula2本編

 Caligula2のメインストーリーにおいても、プレイヤーの興味を煽る手法は継続している。

 帰宅部員のパーソナルな内容についてはキャラクターエピソードで語られるため、本編で直接その内容が描かれることは少ない。ただ今作は前作に比べて、物語本編中にキャラクターの秘密を匂わせる言動が多く存在する。男子であることに拘りを持つ少年、多数決に固執する風紀委員、ニコを強調する少女。恐らくこういうことなんだろうなと当たりはつけられるものの、メインエピソードの中で明確になることはない彼らの秘密。

 つまり我々にとってキャラクターエピソードを読み進める行為は、答え合わせなのだ。そこに理解も共感も正しさも必要なく、予想が当たっているかどうか、予想を超えた何かが待っているかどうか、それらを期待しながらエピソードを読み進めていく。エピソードが佳境に入るときに出てくる大仰な警告も、もはや逆に欲求を掻き立てる演出に見えてくる。

いいえを選んでも特に何かがあるわけではないため、ゲーム的には無意味な選択肢になっている

 こうして膨れ上がった好奇心を満たしながらキャラクターエピソードを読み終え、いよいよ残すは最後の謎のみ。エピメテウスの塔の頂上で待つブラフマンと対峙し、そこで明かされるブラフマンとリグレットの意外な正体。ボルテージは最高潮。最後の秘密を解き明かしに最終決戦へと向かうその先で待つものは。

 これがカリギュラ効果の代償だと、あるいは行き過ぎた好奇心の代償だと言わんばかりに、積み上げてきたカタルシスは崩れてゆく、音もたてずに。無常に消える、何も残さずに。

発売後アップデート/ネタバレインタビュー

 Caligula2をプレイしたユーザーの質問に回答するという直接的にインタラクティブ性を持つ施策が、ゲーム内とゲーム外でそれぞれ行われた。

 ゲーム内のキャラクターに対するWIREの質問内容を募集し、実際にその内容をもとに回答が追加されるアップデートが行われた。

 質問が増えるとそれだけキャラクターの掘り下げがより深くなりファンとしては嬉しいのだが、まさか発売後にそれが60個近くも増えるアップデートが行われると思わず驚いた。

 

 また、ユーザーから事前に質問を募集しそれに回答する形での、山中Pに対するネタバレ解禁インタビューも行われた。

www.gamer.ne.jp

 リグレットがああいう形になった経緯や、それに対するパンドラの役回り等、Caligula2の物語の構造として興味深い内容だったので、本編クリア後に是非一読することをお勧めしたい。

終わりに

 今回行われているイラスト/感想文コンテストも含め、Caligulaというコンテンツがいかにインタラクティブ性を重視しているのかということの一端を紹介してきた。

 インタラクティブ性というものはリアルタイム性を帯びているため、Caligula2本編以外の内容については、これからCaligula2をプレイするプレイヤーたちに対しては届きづらいという欠点が存在する。そういった人たちに対して、本内容が発売前後のプロモーションを含めたコンテンツ全体としての魅力の紹介になれば幸いに思う。

*1:厳密に言えばキャラクターエピソードを最後まで進めることで特別なスキルを取得はするので、全くメリットがないわけではない。

*2:Overdoseのキャラクターエピソードを読む限りでは、彼女はずっと被虐者であんなことになった可哀そうな子だという印象だったが、そうではなくあれは彼女自身の仕打ちの結果であったことに溜飲を下げた覚えがある。

*3:アニメカリギュラの次回予告版エクストリーム帰宅部は、単体でそれなりにわかりやすい内容になっているので、おそらくこちらの方はプロデューサーコメントで突っ込まれる前提で手を抜いてあえて意味不明な内容にしているのだと思われる。