上手ぶれる雷光速ヒロイックアクション――蒼き雷霆ガンヴォルト鎖環

前置き

 前作から6年ぶりのシリーズ最新作、『蒼き雷霆ガンヴォルト 鎖環』がいよいよ発売された。『鎖環』のプロジェクト始動PV*1から発売まで2年かかったということを鑑みても、かなり開発が難航したであろうことが想像できた。また今年頭に発売された外伝作『白き鋼鉄のX2』が、アクションやステージ設計、レベルデザインの面でイマイチな出来だったこともあり、期待半分不安半分といった心持ちであった。

 しかし実際蓋を開けてみると、きりんのアクションは爽快感があり、各所のゲームデザインも洗練されてる様子が伺え、シリーズ最高傑作と言える出来栄えだった。中でも特にアクションゲームをやり込むほど上手なわけではないが、苦手なわけでもない『アクションゲーム中級者』に向けたアプローチが素晴らしいと感じたので、紹介していきたい。

2種類のルートが用意されたステージデザイン

 2Dアクションゲームにおいて、ステージの道中を高速で駆け抜けていく行為が爽快感があって面白いということは、既に『爪』や『イクス』シリーズにおけるアキュラの『ブリッツダッシュ』のシステムにおいて証明されていた。ただ『ブリッツダッシュ』の連続した空中ダッシュは、地上のステージギミックを無視して進み続けることが可能であった。そのためクードスを稼ぐことを気にしなければ、ひたすら空中ダッシュを繰り返しあらゆるギミックをスルーしてステージを踏破することができてしまった。

 一方今作におけるきりんの『雷霆煉鎖』は、敵やオブジェクトに護符を撃ち、その対象に瞬間移動するという仕組みなため、自由自在に高速移動できるわけではない。瞬間移動のルートは配置された敵やオブジェクトの位置に従うため、ステージ設計でデザインされた動きの範疇を超えることはない。そのためステージのギミックの攻略という要素を損ねないまま、高速移動によるプレイの爽快感を味わわせることができるシステムになっている。

 

 ステージギミック自体も工夫されており、足場の悪いステージをゆっくりと進んでいくギミックと、雷霆煉鎖で敵を足場して進むという『ステージギミックをスキップするギミック』という2種類のルートが用意されている。

移動するコンテナに乗って進むか、敵やコンテナに雷霆煉鎖で進んでいくか

砂の足場を渡っていくか、レーザーを放つ敵に雷霆煉鎖で進んでいくか

 ギミックをスキップしてはいるが、かといってスキップする道が簡単なわけではない。雷霆煉鎖に失敗して落ちてしまうと棘や穴でダメージを受ける中で、的確に敵に対して護符を撃ち続ける必要があり、むしろ難易度としては高くなっている。

 雷霆煉鎖による瞬間移動が、簡単にステージギミックをスキップして進んでいく手段ではなく、『高難度だがギミックをスキップできるギミック』になっているところに、ステージデザインの巧みさが表れている。

雷霆煉鎖を使うルートに誘導させるレベルデザイン

 2種類のルートが用意されているのは、アクションゲームがそこまで上手ではない層に向けた救済措置の面もあるだろう。雷霆煉鎖は派手なエフェクトでワープするため、こういったアクションに慣れていないと自機を見失いやすく、何が起こっているのかわからない状態に陥りやすい。そういったプレイヤーでも攻略できるようにするために存在するのが通常のルートだ。だが雷霆煉鎖を使った進み方をする方が、デザイナーが推奨する攻略法であることは間違いない。

 実際高スコアを狙う場合のこのゲームのステージ攻略は、『いかに空中で雷霆煉鎖を続けられるか』が焦点になっている。地に足をつけないまま雷霆煉鎖を繰り返すと、クードスに倍率ボーナスが入るため、高スコアを狙う場合は空中雷霆煉鎖が必須のテクニックになってくる。

 ステージ中の敵の配置もそれを意識したものになっており、ステージ最初から最後まで頑張ればずっと空中雷霆煉鎖を維持できるようになっている。敵やオブジェクトの配置を覚え、空中に浮遊している短い時間の間に正確に次のオブジェクトに護符を撃ち雷霆煉鎖を維持し続けることができるかがこのゲームキモだ。

 

 そのキモの部分の爽快感や面白さを体験させるためのデザインとして、特に序盤のステージにおいて、雷霆煉鎖によるワープ移動をさせようとするステージギミックが豊富に用意されている。

赤線を超えるとシャッターが閉まるが、雷霆煉鎖でワープすればスキップできるギミック

煉鎖灯に連続して雷霆煉鎖して昇る必要があるステージギミック

 またライブノベルにおいても序盤は特に『ここで雷霆煉鎖を使え』という指示をキャラクターから受けることもあり、雷霆煉鎖の使いどころを自然と体感させるデザインになっている。

上手なプレイをしていると思わせてくれる各種システム

 クードスを稼ぐためには空中での雷霆煉鎖の持続が必須だが、失敗して地面に落ちたとしても、そこからすぐに次の雷霆煉鎖を始めることができる。コンボボーナスが途切れるためクードス獲得量は減ってしまうが、ステージを進んでいくスピード感自体は失われることはない。つまり上手いプレイ*2とそうじゃないプレイとで、ステージを進んでいくスピード感自体はそこまで大きく変わらないのだ。雷霆煉鎖はとにかくエフェクトが派手なこともあり、ステージ攻略のスピード感と合わせて、実際にはそこまで上手なプレイでなくとも、『自分が上手にこのゲームをプレイできている』感を味合わせてくれる


 クードスのシステムの変更もこれに貢献している。ガンヴォルトシリーズをやっている中で一番テンションが上がる瞬間は、クードスが1000を越え、モルフォの歌が流れている時だろう。前作までは3回ダメージを受けるとそれまで溜めてきたクードスが0になっていた*3。今作ではダメージを受けると『クードスロック』がかかり、一定量のクードスが低下するシステムに変更された。これにより、どれだけダメージを受けてもクードスを稼ぎ続ければモルフォの歌が流れ続けるようになった。

 アクションゲームにおいて『被弾しない』ことの難度はかなり高い。敵の動きや配置、ステージギミックをしっかり把握する必要があり、技術だけでなく知識も求められるからだ。前作まではモルフォの歌が流れ続ける状態を維持するのはかなり難しい行為であったが、今作のシステムでは多少プレイが下手でもステージの最初から最後までずっとモルフォが歌い続けるようなプレイがしやすくなった。

 

 きりんについてくる煌びやかなモルフォと、雷霆煉鎖エフェクトで賑やかな画面の中を、モルフォの歌をバックにしながらワープを使って高速に進んでいく。これらの演出が『上手なプレイをやっている』感を与えてくれ、プレイ感がとても良いのだ。*4

常に派手なエフェクトをまき散らしながら画面内を動き回るきりんとモルフォ

総評

 ガンヴォルトシリーズは2Dアクションの初級者、中級者、上級者それぞれに対して適切なアプローチを行っている作品だが、今作は特に中級者――アクションの腕自体はまあまあ上手い方だとは思うけど、同じステージを何度も繰り返して最適解を考えるといった作業をやるほどのめり込みはしない、というレベルのプレイヤー――が、とても楽しめるような作りになっている。

 ストーリーについてはシリーズファンとしては思うところ*5がないではなかったが、『鎖環』単体としては程よくまとまっており、前作から数十年が経過したという設定も、ここから新しく始めるプレイヤーにとっては入りやすい設定になってるともいえるだろう。

 

*1:https://www.youtube.com/watch?v=uFIiJm4SRX0

*2:ここでいう上手いプレイとは、クードスを稼ぎ高いスコアを狙うことができるプレイの意

*3:通常難易度のTIMIDの場合

*4:実際にはリザルトはAだったりするので、そこまで上手なプレイではないのだが

*5:前作でのフリもあったわけだし、『ガンヴォルトと電子の揺精』の物語の続きを見たかった