田舎町の郷愁というファンタジー――なつもん! 20世紀の夏休み

 『ぼくのなつやすみ』がどういうゲームだったかというと、「郷愁を味わうゲーム」だった。もう戻れない少年時代や田舎の生活の夏、出会いと別れ。メインテーマの物悲しさも相まって、クリア後にグッと押し寄せる寂寥感こそが『ぼくなつ』シリーズの真骨頂だったと言えるだろう。

 そんな『ぼくなつ』シリーズの実質的な続編と言える本作は、しかし「郷愁」をメインテーマには据えていない。本作は「さようなら」ではなく「またね」で終わる作品であり、「子供の頃の夏休みってドキドキやワクワクして楽しかったよね」という肯定的な感情をメインに据えた作品になっている。

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 「子供の頃はただ外を駆け回るだけで楽しかった」という体験が、オープンワールドゲームのそれと似ていることに着目した点が本作の素晴らしい点だ。本作は『よもぎ町』を中心としたシームレスで広大なフィールドを、アクションゲームのように二段ジャンプしたり滑空したりと自由に冒険しながら、夏休みを満喫できるゲームになっている。

 

 虫取りや魚釣り住人との交流など、ゲームプレイ自体は『ぼくなつ』シリーズと大きな違いはないが、 現実離れしたアクロバティックなアクションや、主人公だけに見える座敷童探しなど、全体的にリアリティラインが低く設定されている。そのため本ゲームにおける体験は、「あの頃の思い出」というリアリティに基づく郷愁ではなく、「こんな夏休みあったら楽しいな」というファンタジックな憧憬なのだ。

 

 少年時代の夏休みの体験を、子供の頃の掛け替えのない大切な思い出とするのか、もう覚えていないけれどもあの日々は楽しかったなという感情とするのか。切り出し方の違いによって、根本のゲーム性は同一でありながらも全然違うテイストの作品になっている。

 初代『ぼくのなつやすみ』が2000年発売のゲームであり、本作の舞台設定が1999年であることを考えると、もはや『ぼくのなつやすみ』というゲーム自体が郷愁される存在になってしまった。そんな過去のゲームが描いていた田舎町の一夏の思い出という郷愁は、現代においてはもはやファンタジーでしかなくなってしまったというのが、この路線変更の事由であるだろう。

 

 『ぼくなつ』は大人にやってほしいゲームと打ち出していたが、本作『なつもん』は今を生きる子供たちに楽しんでもらいたいという気持ちで作られたゲームであるように思う。 あんな夏休みもあったねと懐かしむのではなく、こんな夏休みはいいよねと現代を生きる子供たちに夢を見させてくれる作品なのだ。

 私が子供の頃に『ぼくなつ』を遊んだ経験が、いいゲームだったな、またあの頃に戻りたいなと感じるような思い出になっているように、誰かにとって『なつもん』が子供時代の郷愁になりうるようなゲームであればいいなと思う。