ゲームシステムとシナリオの相互作用――パラノマサイト FILE 23 本所七不思議

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 本作『パラノマサイト FILE 23 本所七不思議』は、『本所七不思議』の呪霊に取り憑かれた九人の『呪主かしりぬし』たちが『蘇りの秘術』を求めて互いを殺しあう呪術バトルロイヤルを行いながら、その裏で巻き起こる様々な事件や陰謀をザッピングシステムを用いて複数の主人公の視点から解き明かすホラーミステリーADVだ。

 ゲームを開始するとまず『案内人』が現れ、基本的なゲームシステムの説明が行われる。セーブの仕方、メニューの見方、オプションの設定方法。その後プレイヤーの名前を聞かれ、入力すると何故かゲーム機本体のユーザ名を答えられるというちょっとしたメタ演出も加えながら、『案内人』がこのゲームを俯瞰的に捉えたメタキャラクターとしてプレイヤーの補助を行う役割だと理解したところで、本編が開始される。

入力した名前とは異なるゲームユーザ名を当てられる

 ここまでの概要で面白そうなゲームだという直感がしたなら、迷わずニンテンドーeショップかSteamで本編をダウンロードしてプレイしてもらいたい。10時間ほどでクリアできる短編作品ではあるものの、その期待はきっと裏切られないだろう。

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 本作はホラーを銘打ってはいるものの、過剰に恐怖を煽る演出は存在しない。にもかかわらず、しっかりと恐怖を覚えるようなシーンや演出は存在している。

 たとえばフィールドでの探索パートにおいて、パノラマ写真を見るかのようにカメラを360度回転させることができる。主人公の視点から周囲の全景を見渡すことができるのだが、これを生かしたジャンプスケアの演出*1が存在する。一例を挙げると、夜の庭園を探索をしようと思いカメラを回すと、後ろに思わぬ人物がいるというものだ。

人物を見つけたことによって大きな音が発生するなどの演出はない

 深夜に一人だと思って振り返ったら人がいたというシチュエーションの怖さだけではなく、プレイヤーがカメラを操作して発見する驚きと、いると思わなかった人物がいるというプレイヤーの思考の裏をかくことによる驚き、どちらもゲームならではの能動的な方向性での驚きによって恐怖を与える演出になっている点が特徴的で面白い要素だ。

 

 シナリオにおいてもその点は共通している。本作では様々な事件が発生するものの、大筋となっているのは『呪詛珠を所持する九人の呪主による殺し合い』だ。呪詛にはそれぞれ本所七不思議の呪いが篭められており、呪いによって人を殺すことができる。ただし呪いを発動するためには、それぞれの呪詛珠固有の条件を満たす必要がある。そのため呪主同士が対峙した場合、まずは探り合いから始まることになる。

 相手の呪詛の条件は何か、こちらの条件を満たすにはどうすればいいか、そもそも相手を殺していいのか――様々なキャラクターたちの思惑の渦中、一つ間違えれば呪い殺される緊張感の中で、プレイヤーが介入して会話や行動を選択していく『駆け引き』の恐怖と面白さが本作のシナリオには存在しているのだ。

 

 またシナリオの面白さという点において、特筆すべき点が一つ存在している。本作ではシナリオの展開にゲームシステムを利用する、いわゆるメタ演出が存在する。それ自体は昨今の流行もありそれほど珍しいものでもなくなってきたが、本作の巧みなところはそのメタシステムをシナリオのミスリードとして用いている点だ。

 蘇りの秘術とストーリーチャート、霊による乗っ取りとザッピングシステム。ゲームシステムを展開に利用しているという前例があるからこそ誤解する巧みなレッドへリングは、そういうことか!と膝を打つことになるだろう。

 

 総じてゲームシステムとシナリオが高いレベルで相互に作用しており、ゲームだからこその面白さを遺憾なく発揮している点がとても素晴らしい作品だ。

*1:突然画面に何かが現れてびっくりする演出