拡張された戦略性――ファイアーエムブレム エンゲージ

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 近年のFEシリーズは、SRPGというゲームジャンルが抱える取っつきづらさを、恋愛シミュレーション等の別ジャンルのゲームの要素を組み合わせることで解消してきた。従来のFEシリーズが持っていたキャラクターにフォーカスした要素を上手に昇華して、ライトな層にも遊び安いシステムを導入することで新規プレイヤー層を獲得してきたのだ。そんな近年のFEシリーズの集大成ともいえる『風花雪月』が最高傑作であることに異論がある人はそこまで多くはないだろう。

 そんな偉大な前作から満を持して発表された本作だが、しかし初報の時点ではかなり不安な内容だった。

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 主人公のキャラデザはともかくとして、何より一番の懸念点は「歴代のキャラクターたちが登場してくる」点だ。そもそも過去キャラクターを登場させること自体がそれなりにリスクのある行為である上に、FEシリーズとして特に『覚醒』以降顕著であった「新規プレイヤーの獲得」という理念と相反することになるからだ。マルスの持つカリスマ性の八割ぐらいはスマブラに依拠していると言っても過言ではない状況で、良く知らない過去作のキャラが英雄として称えられて活躍する内容に、どの程度の求心力があるだろうか。

 結論を言えば、その点に関しては上手にやったと言える。ゲームクリアした上で考えてみると、歴代キャラを登場させたくて紋章士という設定を作ったのではなく、エンゲージシステムがベースにあった上で紋章士という役割に歴代キャラクターを割り当てたとみるほうが恐らく正しい。本作は風花雪月に唯一足りなかったと言ってもいい「SRPGの戦略性の面白さ」が醍醐味のゲームだ。

三竦みの復活

 「風花雪月」で消えた武器の三竦みのシステムが復活した。だけでなく、相性が有利な武器で攻撃すると敵をブレイクし、反撃を受けなくなるという新要素が追加された。

 一回の戦闘で必ず敵味方一度ずつ攻撃しあうシステムであり、敵一体を倒すのに複数回の攻撃が必要であるFEシリーズにおいて、「敵の反撃を受けない」ことは大きなアドバンテージだった。故に敵の攻撃範囲外から反撃を受けずに殴れる弓や魔法等の長射程武器が強力であったが、今作では近接武器でも相性が有利な武器相手に対してそれらと同等のアドバンテージが得られるようになった。またブレイクは敵からの攻撃に対しても適用されるため、武器相性が不利な相手の前に出すと成すすべもなくやられてしまうリスクも生まれることになる。このシステムによって「どんな状況にも対応できる最強の一体」は存在し得なくなり、キャラクターに明確に役割が生まれることになった。

強力な役割を与えるエンゲージ

 キャラクターに紋章士の指輪を持たせると紋章士とシンクロ状態になる。シンクロ状態のキャラクターは紋章士のスキルが使えるようになる他、シンクロした紋章士とエンゲージできる。エンゲージを行うと、3ターンの間紋章士固有の強力な武器が使え、エンゲージ技と呼ばれる必殺技が使えるようになる。

 シンプルに言い表せば「紋章士の指輪を持たせたキャラクターは強くなる」のだが、

この紋章士のシステムは単純にキャラクターの数値を強くするのではなく(数値も強くするのだが)キャラクターに固有の役割を与える方向性の強さであることがミソになっている。

 たとえば紋章士リンとシンクロしたキャラクターが使える固有スキル「残像」は、自身の周囲にHP1の分身を4体召喚できる。説明には記載されていないが、この分身は敵からのヘイトを優先的に貰うような仕様になっているため、「前に出して孤立した状態から分身がヘイトを貰うことで敵の攻撃を捌く」という使い方ができる。

HPは1だがリンは速さに補正が入るため相手の攻撃より先に反撃できることが多く、回避もそこそこ高いので地味に生き残ってくれる

 他にも地形変化や移動阻害で敵の動きをコントロールできる紋章士カムイ、自身の攻撃範囲内での戦闘ならチェインアタック(追撃)できる紋章士ルキナ、敵から攻撃を受ける際に相性が有利な武器に持ち替えることができる紋章士リーフなど、シンクロスキルとエンゲージ技によって、ただ単純に威力の高い攻撃ができるだけではなく、戦略性という面において唯一無二の強力な役割をキャラクターに付与することができるのだ

 

 武器相性の強化によりキャラクターごとに役割分担がより求められるようになり、紋章士のシステムによりキャラクターに強力な固有の役割を与えられるようになったことにより、SRPGパートにおける戦略性は『風花雪月』よりも大きく拡張された。だがそれ以外の部分については前作に遠く及ばず――特にシナリオはよくある安っぽいJRPGになり下がり――『風花雪月』の完成度から期待される次作の出来には届いていない*1というのが正直なところだ。

 シリーズごとに毛色が変わるのがFEシリーズの特徴であり、だからこそ前作に足りなかったところ、前作で出来なかったところで勝負しようというのは理解できるが、にしてももう少し前作の良さを継承してもよかったんじゃないだろうか。

 最後に好きなキャラの好きなセリフを引用して本作を評させてもらうと、switchで発売されたFEの風花雪月じゃない方――だろう。

*1:前作を超える期待値に届かなかったという意味であり、(シナリオ以外の要素は)及第点程度の出来はある