迫りくる『恐怖』と『不和』から生き延びるサバイバルホラーADV――デジモンサヴァイブ

前置き

 このゲームは『サバイバルホラーADV』であり、『デジモンSRPG』として捉えるのは誤りである。

 本作中において一度たりとも『デジモン』という単語は出現しない。登場するモンスターたちは間違いなく既知のデジモンと同一だが、彼らは本ゲーム中では『ケモノガミ』と称された異世界の化け物であり、『デジタルモンスター』としての要素を抱えてはいない。

 このゲームの序章の展開を簡単にまとめると以下の通りだ。

課外キャンプに来ていた男女8人の子供たち。春なのに雪が降る異常気象に見舞われた神社で、彼らは突然異世界に飛ばされてしまう。たどり着いた先で何故か自分の名前を知っている不思議な生き物『ケモノガミ』と出会う。

 デジモンというコンテンツに触れたことがあるプレイヤーなら、これが初代『デジモンアドベンチャー』と出だしと同じだと気づくだろう。

 子供向けアニメだった『デジモンアドベンチャー』はキャラクターが小学生だったこともあり、よく言えば前向き、悪く言えば楽観的に物語は進んでいった。一方本作では主要キャラクター達が中学生に引き上げられていることもあり、現実的な状況判断や思考能力を備えた結果、『不和』と『恐怖』が彼らの心を支配することになる。

 

 異世界にやってきた主人公タクマたちは、そこで出会う様々な『ケモノガミ』から襲われることになるのだが、このケモノガミに襲われるシーンはとことん恐怖を煽るような演出を施されている。

 『いきなり異世界に飛ばされて、そこに住む未知の化け物に襲われる』というシーンを、サバイバルホラーの文脈で再解釈した結果、『ケモノガミ』たちは恐怖の対象として描かれることになる。

 

 そんな『ケモノガミ』の恐怖に加えて、現実に帰る方法がわからないという先の見えない恐怖が、子供たちの間に不和をもたらすことになる。

 

 そんな恐怖やストレスにより徐々に疲弊していく心が行き着いた先に訪れる『死』。 なんとこのゲーム、キャラクターががっつり死んでいくのだ。

 

 デジモンを『未知の化け物』として描き、デジモンとパートナーの関係を『心の弱い人間は生き残れない』という文脈で解釈することで、『デジモンアドベンチャー』の物語の文脈を『サバイバルホラー』として描いたのが本作、デジモンサヴァイブである。

 

臨場感のあるADVパートの演出への拘り

 ゲームとしてもメインパートになるであろうADVパートは、かなり演出に拘りが感じられる作りになっている。

 3Dフィールドを作った上で2Dキャラクターを表示させており、遠近のあるキャラクター配置や、フィールド上を動くカメラワーク等、会話や展開に応じた演出が臨場感を感じさせる作りになっている。

 

 目パチ口パクはもちろんのこと、場所によってキャラビジュアルに明暗がついていたり、ピントによるぼかし表現もあったりと、細かな表現への拘りも感じる出来になっている。

丁寧に描かれるキャラクターの心情

 メインキャラクターは主人公含め8人いるのだが、キャラクター全員に対してかなり細かく心情描写が挿入される。

 タクマが異様に察しがよくて他者に理解のある器の大きな人間に見える点が少し気になりはするものの、恐怖に煽られて不和の原因となるような言動を起こすキャラクターに対してもしっかりとフォローが入れられる形となり、不思議と不快感を覚えることなくキャラクターを受け止めることができる。

難しくないSRPGパート

 SRPGの特徴として、敵にユニットと自ユニットで強さが同じぐらいである点が挙げられる。故に複数のユニットで敵を一気に叩くのが基本戦略であり、同時に複数の敵ユニットから同時に攻撃を受けないように味方ユニットを配置するのが大事だと言える。

 本ゲームではそういった、SRPGの戦略的要素を考える必要がほぼない。何故なら敵ユニットが固まって登場することがないからである。敵は複数存在するものの、それらはマップ上の離れた位置に点在して出現し、移動してくることもないため、容易に各個撃破が可能なのだ。

 また、戦闘中にオートモードにする機能もあり、これを利用すれば自動操作で勝手に勝ってくれるため、SPRGパート自体を丸々スキップすることが可能だ。

 

 ゲームシステム自体に戦略性が全くないわけではない。たとえばパートナーデジモンたちは戦闘中に任意の形態に進化することができる。デジモンたちはパッシブスキルと技がデジモン種別ごとに固有であるため、進化先によってできる動きや役割を変えることができるのだ。

 ただ本ゲームにおいてそこを戦略的に用いられるシーンはない。一番強い形態に進化することが、どの状況においても最善だからである。

 進化先を分岐させる要素もあるが、1週目では利用することができない

総評

 これらの要素を総合すると、本作は『サバイバルホラーADV』をメインとして据えた作品だと考えるのが妥当だろう。ADVを求めてやってきたプレイヤーがSRPGパートで詰まることがないような配慮を施した結果、戦略性が削ぎ落された形になっていると言える。そのため『デジモンSRPGゲームをやりたい』と思って本作をプレイすると肩透かしを食らうことになるだろう。

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 このプロモーション映像を見て面白そうと思ったプレイヤーこそが本作のメインターゲットなのだ。そこを履き違うことがなければ、このゲームは面白い作品だと言えるだろう。