世界の欺瞞を暴く――ハーヴェステラ

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 公式ページを開くと『ファンタジー×生活シミュレーションRPG』と掲げられているが、これは嘘である。なのでルーンファクトリーみたいなゲームだと思ってプレイすると狐につままれることになるだろう。ただ虚偽宣伝という訳ではなく*1、このゲームをクリアした人ならば「おそらくこれは狙って嘘のコピーをつけたのだろう」と推察できる。なぜなら『世界の欺瞞に惑わされるな、己の信じる正しさに従え』というのが本作におけるテーマの一つだからだ。

解剖されるファンタジー要素


 記憶喪失の主人公を操りながらプレイヤーがまず目にしていくのは壮麗な自然にあふれた世界にあるユニコーンや妖精、魔族やモノライト(魔法の装置)といったようなファンタジックなシンボルたちだが、しかし自分は未来からやって来たという少女アリアから生まれ始まる違和感は、物語を進めていくうちに徐々に広がっていく。


 ストーリーを進行していきシーズライトの中に行くと、それまでの世界観には似つかない近代的な機械やビルの廃墟類が現れ、それらの廃墟になった施設をアリアは知っているという。その後もちょくちょく現代的なアイテムや言葉や知識が披露されていき、「開かずの王城」にたどり着いた時点で、最初に見てきたファンタジーな要素の種明かしが行われることになり、世界の真実を知ることになる。最終的には人類はどうあるべきかというところにまで話は展開するため、この物語は星と人類の歴史を巡る壮大なSFになるのだ。

薄いシミュレーション要素

 生活シミュレーションにおける必要条件とは『生活感』であり、農業や畜産ができることではない。それらはあくまで自立した生活を送るゲーム性としての要素の1つであり、別にここがバイトをして稼ぐでも、落ちてるアイテムを集めて売るでも、生活シミュレーションゲームであることには変わりない。『生活感』は主人公の衣食住と、社会との接続*2で表現されるものなのだ。
 本ゲームにおいて料理要素こそあるものの、衣類と住居についてはカスタマイズする余地がない。農業をして稼いだお金は拡大再生産としての施設への投資と、主人公たちの武器の強化に充てられるものになっている。またNPCとの交流という側面においても本ゲームはRPGの文脈で作られており、NPCに対して話しかけてもストーリーが進むまでは同じ答えしか返ってこない。*3
 つまりこのゲームでは『農業と畜産で生計を立てながら住人と交流して時を過ごす』という楽しみ方をすることはできない。生計を立てることの目的はRPGとしてのパラメータ強化であり、そしてそれらはストーリーを進行させることに繋げる必要があるのだ。本作の農業要素は生活シミュレーションゲームとしての要素ではなく、RPGにおけるパラメータ強化の要素として作られている。

総評

 このゲームは「ファンタジー」でも「生活シミュレーション」でもなく、『SFアクションRPG』とするのが正しいのだが、そこを解き明かすこと自体が物語としてのギミックに組み込まれている。なので農業しながら住人と交流してスローライフを過ごして楽しむぞ!というノリでやってると、望んでた物とは違う上にテーマ性が強くて小難しいSFのストーリーが展開されるので拒絶感が生まれるかもしれないが、SFのノリを楽しめる人ならばテーマ性やメッセージ性も含めて十分に楽しめる内容になっている作品だと言える。

*1:実際ファンタジー要素も生活シミュレーション要素もないわけではない

*2:ゲームにおいては村や街で他のキャラクターとの交流

*3:生活シミュレーションゲームではNPCとの交流はメインの要素の一つであり、話しかける度に違う返答がかえってくることでキャラクターを深く知る楽しみに繋がる